令和5年4月より段階的に施行される不動産のルール変更の概要解説
大きなポイントは3点
point1 不動産登記制度の見直し
相続登記・住所等の変更登記の申請義務化
point2 土地を手放すための制度の創設
相続等により土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認をうけてその土地の所有権を国庫に帰属させることができるようになる
point3 民法のルールの見直し
土地・建物に特化した財産制度の創設、共有制度の見直し、遺産分割に関する新たなルール、相隣関係の見直し
長期間経過後の遺産分割(令和5年4月1日施行)
遺産分割の新ルールとして民法等が改正され始まる制度です。
被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分又はは指定相続分によって画一的に行う事とされました。
具体的相続分とは、特別受益や寄与分と呼ばれるもので、この改正により被相続人の死亡から10年経過した相続について裁判所に持ち込まれた場合は、特別受益や寄与分は考慮されず法定相続分または指定相続分による相続となることになります。
遺産分割協議が成立する場合は、その遺産分割協議は有効です。
※ 施行前に開始した相続にも適用されるが、施行時に相続開始が10年以上経過したもの、及び施行時より5年以内に相続開始から10年を経過するものについては、施行時より5年の猶予期間が設けられる。
土地・建物に特化した財産管理制度の創設(令和5年4月1日施行)
1所有者不明土地・建物の管理制度
所有者不明土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることにより、その土地・建物の管理を行う管理人(弁護士・司法書士等)を選任してもらうことができる。
管理人は裁判所の許可を得て、所有者不明土地の売却等も行える。
2管理不全状態にある土地・建物の管理制度
所有者による管理が不適当であることによって、他人の権利・法的利益が侵害され又はそのおそれがある土地・建物について。利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができる。
ゴミの撤去や害虫駆除等を管理人に要求できるようになる。
共有制度の見直し(令和5年4月1日施行)
・共有物につき軽微な変更をするときは持ち分の過半数で決定可。
・所在等が不明な共有者がいる場合には、他の共有者は、地方裁判所に申立て
その決定を得て下記の行為が可能となる。
①残りの共有者の持ち分の過半酢で、管理行為
②残りの共有者全員の同意で、変更行為
・所在等が不明な共有者がいる場合には、他の共有者は、地方裁判所に申立てその決定を得て、所在等が不明な共有者の持ち分を取得したり、その持ち分を含めて不動産全体を第三者に譲渡することが可能となる。
相隣関係の見直し(令和5年4月1日施行)
境界調査や越境してきている竹木の枝の切り取り等のために隣地を一時的に使用することが明らかにされるともに、隣地の所有者やその所在を調査してもわからない場合にも隣地を使用することができる。
ライフラインを自己の土地に引き込むために、導管等の設備を他人の土地に設置する権利や、他人の所有する設備を使用する権利があることが明らかにされるとともに、設置・使用のためのルールが整備された。
催促しても越境した枝が切除されない場合や、竹木の所有者やその所在を調査しても分からない場合等には、越境された土地の所有車が自らその枝を切除できる仕組みが整備された。
※ 裁判をせずとも枝の切除が可能となる。
相続土地国庫帰属制度の創設(令和5年4月27日施行)
相続等によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣の承認により、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が新設される。
対象者は、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人。
制度開始前に土地を相続した場合でも申請可能。
土地が共有地である場合には、共有者全員で申請しなければならない。
ただし、売買等によって任意に土地を取得した者や法人は対象とならない。
通常の管理又は処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる土地については対象外
(・建物、工作物、車両等がある土地 ・土壌汚染や埋設物がる土地 ・危険な崖がある土地 ・境界が明らかでない土地 ・担保権などの権利が設定されている土地 ・通路など他人による使用が予定される土地)
申請時に審査手数料を納付し、国庫への帰属について承認を受けた場合には、さらに負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付する必要がある。
相続登記の申請の義務化(令和6年4月1日施行)
・Ⓐ基本ルール
相続(遺言含む)によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。
・Ⓑ遺産分割時の追加ルール
遺産分割が成立した場合には、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、登記を申請しなければならない。
※ 「被相続人の死亡を知った日」からではないから、相続財産に不動産が存在することを知らなかった場合等は3年の期間はスタートしない。
※ 正当な理由なく義務に違反した場合、10万円以下の過料となる
相続人申告登記(令和6年4月1日施行)
遺産分割協議がまとまるまで、相続人の共有となるが、登記には相続人の範囲や割合を確定しなければならないが、Ⓐの申請義務を履行するために新たな制度が新設される。
①登記簿上の所有者について相続が開始したこと
②自らがその相続人であること
上記を登記官に申し出ることで相続登記の申請義務Ⓐを履行することができる。
※ 自分が相続人であることを示す戸籍謄本等のみを添付すれば事足りる。
DV被害者等の保護のための登記事項証明書等の記載事項の特例(令和6年4月1日施行)
DV防止法、ストーカー規制法、児童虐待防止法上の被害者を対象に、対象者が載っている登記事項証明書等が発行されるときは、現住所に代わる事項が記載されることになる。
所有不動産記録証明制度(令和8年4月までに施行)
登記官において、特定の被相続人が登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度が新設される。
住所等の変更登記の申請の義務化(令和8年4月までに施行)
登記簿上の所有者については、住所等を変更した日から2年以内に住所等の変更登記をしなければならない。
※ 正当な理由なく義務に違反した場合、5万円以下の過料となる。
これまで住所等の変更登記の申請は任意であり、転居等の度に住所等の変更登記をするのは負担であるため、罰則により申請させることとなった。
他の公的機関との情報連携・職権による住所等の変更登記(令和8年4月までに施行)
登記官が他の公的機関から取得した情報に基づき、職権で住所等の変更登記をする仕組みが導入される。
ただし、自然人(個人)の場合には住基ネットからの情報取得に必要な検索用情報を提供し、本人が了解していることを伝えなければならない。
法人の場合は、商業・法人登記上で住所等に変更があれば不動産登記システムに通知があり、職権で変更登記がなされる。
※ 前述の住所等の変更登記の申請の義務化との関連事項としては、住基ネットからの職権による変更登記がなされれば、住所等の変更登記の申請の義務違反とはならず過料も科されない。(要は所有者不明土地の発生を防げればよい為)